新作ストリームライナー、その全貌-ムーブメント編

新作ストリームライナー、その全貌-ムーブメント編

第1回、第2回にて記してきたようにストリームライナーは、まずは心地いいブレスレットと一体感のあるケースの設計からはじまりました。そして、H.モーザーのデザインコード “Less is More”を満たす視認性の高いレイアウトを目指してムーブメントの開発が進められてきました。

通常クロノグラフ機構は、動力のメインスプリングと時分針がセッティングされている歯車からなる輪列の階層の上に、クロノグラフ機構を重ねることがほとんどです。その間には秒針車(4番車)に伝わる動力をクロノグラフの輪列に伝達させるためのシステム”クラッチ”が備わっており、現在の機械式時計では「水平式」「垂直式」が一般的となっています。

水平式と垂直式にはそれぞれメリットとデメリットがあります。

  • 水平式
    メリット「薄い」「設計しやすい」「耐久性と美観に優れる」
    デメリット「歯車同士のかみ合わせのため針飛びしやすい、スペースを必要とするため自動巻き機構を載せるのが難しい」
  • 垂直式
    メリット「動作が円滑(針飛びを起こしにくい)」「省スペースのため、他の機構を組み込める」
    デメリット「ムーブメントが厚くなる⇒時計も厚くなる」「メカニズムが見えない」

H.モーザーも当初は自社でムーブメントを開発しようとしていましたが、上記の方式の違いやスペース上の制約により、設計に困難を極めました。

そんな中、ハリー・ウィンストン社でのオーパスシリーズや幾多のブランドでコンプリケーションを手掛けていたジャン・マルク・ヴィダレッシュ氏率いるアジェノー社が8年もの歳月を掛けて完成させた革新的なクロノグラフ”アジェングラフ”を発表しました。H.モーザー社はこれまでアジェノー社のパーツ製造を一部請け負っていたという関係から、新たにこのアジェングラフを発展させたクロノグラフを作ろうという話に広がりました。

このアジェングラフの特徴のまず一つ目は、ムーブメントの地板がドーナツ型になっており、中心の開いた部分に極小のすべての積算車が同軸に取り付けられたクロノグラフモジュールをセットするという独創的な構造を持っています。これにより、H.モーザーが目指していた視認性の優れたレイアウトが実現できることになりました。

また動力伝達は水平クラッチ方式で、本来噛み合う二つの歯車の歯をなくし、やすりのように細かく凹凸が施された表面が摩擦の力(フリクションホイール)によりクロノグラフを動作/停止させることでボタン操作時のずれや針飛びを抑えることに成功しました。このフリクションホイールの上部には歯が取り付けられており、通常時は一切噛み合わないようになっていますが、何かしらの衝撃がこのクラッチに及んだ場合に力の伝達が途切れないように歯の部分が一時的に噛み合う、さながら保険のような優れた仕組みが備わっています。

新作ストリームライナー、その全貌-ムーブメント編
全てのクロノグラフの積算計(歯車)をコンパクトに集約したモジュール。これにより同軸上でのクロノグラフ レイアウトを実現 photo credit: Agenhor
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クラッチ部分の歯車に「歯」はついておらず、やすりのような細かくざらついた表面の摩擦力により動力を伝達する photo credit: Agenhor

最初に発表された時のアジェングラフにはセンターに60秒、60分、60時間のクロノグラフ積算計を備え、外周リングで時間と分を表示するというスタイルのため視認性は今一つでした。Hモーザーは使用する場面の少ない60時間用の積算計の代わりにフライバック機能を搭載するよう設計を変更し、より実用性の高いクロノグラフを完成させました。

新作ストリームライナー、その全貌-ムーブメント編
複雑時計専門のムーブメントサプライヤー、アジェノー社と共同で開発したムーブメント。文字盤の下にローターが配されており、一見手巻きに見える独創的かつ芸術的な構造。

最も見る人を驚かせるのは、この時計が自動巻きであるという点かもしれません。自動巻きは通常巻き上げるためのローターがムーブメント上にセッティングされるため美しいパーツの仕上げを一部遮ってしまう、その機構により時計全体に厚みがでるという点が懸念されます。中にはムーブメントの内部に埋め込む「マイクロローター」や外周部の溝に金属を嵌め込むという手法もありますが、完全にローターにあたるパーツが隠れることはありません。

アジェングラフは、ローターを文字盤の下に設置することができる設計になっています。本来であればクロノグラフ機能がある部分ですが、上述したとおり極めてコンパクトなモジュール設計により別階層を設けることなく同階層にすべてのムーブメント機能を集約できたため、434個にも及ぶ荘厳なパーツの重なり合いを堪能できる構造にすることができました。

新作ストリームライナー、その全貌-ムーブメント編

ブレスレット、ケース、ダイアル、ムーブメント。
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